不動産取引には、第三者のために行う「三為契約」という契約形態があります。しかし、三為契約にはさまざまなリスクが潜んでいます。そのため、三為契約を利用する際は、いくつかのポイントに注意して契約を結ぶ必要があるのです。
今回は、三為契約のリスクやメリット、デメリットを解説します。また、三為契約でリスクを負わないための方法もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
三為契約とは
三為契約(さんためけいやく)とは「第三者のためにする契約」を略した言葉です。一般的な不動産売買は、売主と買主の二者間で行われますが、三為契約では売主、買主、仲介業者の三者が関与します。
具体的には、売主と仲介業者、買主と仲介業者が売買契約を結び、仲介業者を介して不動産の取引が行われる仕組みです。宅地建物取引業法では、他人が所有する不動産の売買契約は原則として禁止されていますが、三為契約の場合は例外としています。
三為契約は、元々中間省略登記の代替的手法として考え出されました。中間省略登記とは、中間者を経由せずに、売主から買主へ不動産の所有権を移転する登記のことです。しかし、高いニーズがあったため、中間省略登記と同じ効果をもたらす方法として、三為契約が登場したのです。
このように、三為契約は売主、買主、仲介業者の三者がそれぞれの立場から関与する点に特徴があり、第三者のための契約として不動産取引が可能となっています。
三為契約のリスク
三為契約は、従来の不動産取引にはない可能性がある一方で、多くのリスクも存在します。以下では、三為契約のリスクについて、具体例を交えながら解説します。
三為契約を検討する際の参考にしていただければ幸いです。
相場と大きく異なる取引価格になる可能性がある
三為契約は売主と買主が直接契約を結んでいないため、それぞれの売買価格を知ることができません。そのため、買主は本来の相場価格よりも高額な価格で物件を購入してしまう可能性があります。
多くの場合、不動産会社は売主に高値で売却できるよう働きかけ、買主には安値で購入できるよう説得します。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
物件の相場価格 | 売主への提示価格 | 買主への提示価格 |
---|---|---|
3,000万円 | 2,500万円で提示 | 3,500万円で提示 |
このように、売主には安値で取引、買主には相場より高値で取引が成立してしまうリスクがあるのです。不動産会社は高い仲介手数料を得られるため、このような価格設定を行うインセンティブがあります。
三為契約では一般の売買取引の相場とかけ離れた価格での取引になりやすいというリスクを抱えています。
トラブルが発生しやすい
三為契約では仲介業者が買主と売主の間に入り、三者がそれぞれ別の契約を結んでいるため、仲介業者が責任を逃れることがあります。そのため、以下のようなトラブルが発生しやすい傾向にあります。
項目 | 内容 |
---|---|
手付金の没収 | 買主から受領した手付金を売主が一方的に没収する |
売買契約の解除 | 売主が一方的に売買契約を解除する |
重要事項の不告知 | 物件の重要な欠陥を告知されない |
上記のようなトラブルは、仲介業者が三者間の調整役に徹していない場合に発生しやすくなります。仲介業者が買主・売主の利益よりも自身の利益を優先し、責任を回避しようとすれば、買主・売主間のトラブルに適切に対処できなくなる可能性があるのです。
さらに、三為契約では、契約書の記載が曖昧であったり、内容が明確でない場合も多いため、トラブルが起こりやすくなります。
悪条件の物件を勧められる可能性がある
三為契約では、仲介業者が顧客のニーズにあった物件を提案する義務がありません。そのため、以下のような悪条件の物件を勧められることがあります。
- 立地が悪い
- 雨漏りやシロアリの被害がある
- 施工不良や設計ミスによる欠陥住宅
- リフォームが必要
このように、仲介業者は自社の利益を優先し、売れ残りの悪物件を勧めてくることがあります。
仲介業者が三為契約を用いる理由
仲介業者が三為契約を用いる理由には、以下の背景要因が挙げられます。
- 買主が物件の買取額を把握できないため
- 所有権移転登記が省略できるため
以下でそれぞれの項目を詳しく解説します。
買主が物件の買取額を把握できないため
三為契約では、仲介業者が所有者から物件を買取る際の金額を買主に開示する義務がありません。つまり、仲介業者が所有者からどの程度の価格で物件を購入したのかが不透明なのです。
取引の流れ | 価格の公開状況 |
---|---|
①所有者 ⇒ 仲介業者 | 非公開 |
②仲介業者 ⇒ 買主 | 公開 |
このように、買主は②の価格しか知ることができません。一般的に②の価格は①よりも高く設定されているため、仲介業者の適正な利益が上乗せされていると考えられます。しかし、その利益がいくら上乗せされているのかは不明です。
三為契約では買主が物件の適正価格を知る手がかりがないため、仲介業者から提示された価格が適切なものかどうかを判断できません。
所有権移転登記が省略できるため
通常、仲介取引の所有権移転登記は以下のタイミングで2回行われ、それぞれに登録免許税が課されます。
- 売主から仲介業者へ:売主が所有権を仲介業者へ移転する際
- 仲介業者から買主へ:仲介業者が所有権を買主へ移転する際
しかし、仲介業者は三為契約により物件を買取りつつ転売することで所有権を取得せずに、売主から買主へ所有権を移転させることが可能です。このような場合、所有権移転登記は売主から買主となり、登記に課される登録免許税は買主の支払いとなります。
仲介業者は所有権移転登記を行うことなく、登記に課される登録免許税も節約できます。
三為契約を利用するメリット
先述したように、三為契約は一般的な売買契約とは異なる形態を取るため、一般の方から見ればわかりにくい側面もあるかもしれません。しかし、三為契約にはメリットもあり、上手く活用することで、スムーズな物件取得が可能になる場合があります。
以下で詳しく解説します。
資金が少なくても不動産を購入できる可能性がある
一般的に、不動産の物件価格は売主によって決められます。そのため、金融機関からの融資額は物件価格を超えることがなく、仲介手数料や登記費用などの諸経費は買主が自己資金で負担する必要があります。
しかし、三為契約では仲介業者が物件価格を決めるため、フルローンやオーバーローンを利用できる可能性があります。つまり、自己資金が少なくても希望する物件を購入できるチャンスが広がるということです。
契約不適合責任から解放される
一般的に、不動産を購入したあとのトラブルには、契約不適合責任が挙げられます。契約不適合責任とは、売買された物件に欠陥(瑕疵)があった場合、売主が買主に対して負う責任のことです。
通常の売買契約では、物件の瑕疵に関する責任は売主が負うことになります。しかし、三為契約では仲介業者が買主に物件を転売するため、売主は仲介業者に物件を売却した時点で、契約不適合責任から解放されます。
売主は物件に瑕疵があったとしても、買主から契約不適合責任を追及されるリスクを負いません。このリスクは仲介業者が負うことになるため、売主にとっては大きなメリットです。
三為契約を利用するデメリット
先述したように、三為契約にはさまざまなリスクが潜んでいます。不動産購入は慎重に検討すべき大きな決断です。後々トラブルに巻き込まれないためにも、三為契約の落とし穴を認識しておく必要があります。三為契約を利用するデメリットを見ていきましょう。
相場に詳しくないと安く売却してしまうことがある
三為契約では、物件を適正価格よりも安く売却してしまうことがあります。通常の不動産売買では、売主は自ら市場調査を行い、相場を把握した上で売却価格を決定します。しかし、三為契約では仲介業者が売主に対して買取価格を提示するため、売主は相場を知る機会が限られてしまいます。
相場に詳しくない場合、提示された価格が適正なものだと誤認し、安値で物件を手放してしまう可能性があるでしょう。そのため、市場相場を十分把握しておくことが不可欠です。
売却を急かしてくることがある
三為契約で不動産を売却する際は、仲介業者から売却を急かされることがあります。
具体的には、下記のような言葉で売却を急かしてくることがあります。
- 「このタイミングを逃すと二度と同じ条件では売れない」
- 「買主が他の物件に乗り換えてしまう可能性がある」
こうした仲介業者の言動に慌てて売却に応じてしまうと、本来得られるはずの利益を逃してしまう可能性があります。
冷静に検討する時間を十分に確保し、慎重に判断することが重要です。
売主が三為契約を利用するメリット・デメリット
メリット |
|
---|---|
デメリット |
|
三為契約でリスクを負わないための方法
三為契約には悪質な仲介業者の存在も懸念されています。以下で悪質な仲介業者と取引してリスクを背負わないための方法をご紹介します。
適切な対策を取ることで、安全に不動産取引を行うことができるでしょう。
売買契約書の特約事項を確認する
三為契約で転売される物件の場合、売買契約書の特約事項にその旨が記載されている可能性があります。契約書の内容を事前に確認することが重要です。特約事項を熟読し、疑問点があれば仲介業者に質問するなどして、トラブルのリスクを最小限に抑える必要があります。
特約事項に記載があっても、必ずしも悪質な仲介業者による三為契約とは限りません。一般の不動産仲介業者が三為契約を利用することもあるため、この情報だけで判断するのは避けてください。
物件の所有者を調べる
三為契約では、購入する物件が仲介業者による不正な転売である場合があります。売主が実際の所有者でない場合、物件に係る債務などのリスクが高まります。
そのため、物件の所有者を確認することが重要です。物件の所有者を調べるには、インターネット上で不動産の登記情報を閲覧できる「登記事項情報提供サービス(有料)」がおすすめです。
不動産登記情報(全部事項)の「権利部(甲区)」には、現在の所有者が記載されており、この部分が「第三者」になっている場合は、三為契約による転売の可能性があります。物件の権利関係を十分に確認した上で、契約を行うようにしましょう。
専門家に相談する
三為契約におけるリスクを回避し、安心して取引を進めるために、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。三為契約は、従来の仲介取引よりも複雑な手続きが必要となるためです。
専門家は契約書の内容を丁寧に説明し、買主にとって不利な特約や不審な点がないかを調査してくれるでしょう。
あらゆる場面での適切なアドバイスやトラブル発生時のサポートを受けられることもあります。
三為契約のお悩みは弊社にご相談ください
本記事では、三為契約を利用するメリットやデメリットを解説しました。三為契約には以下のようにさまざまなリスクが伴いますが、十分に理解した上で利用するメリットもあります。
- 相場と大きく異なる取引価格になる可能性がある
- トラブルが発生しやすい
- 悪条件の物件を勧められる可能性がある
ただし、不動産取引は自身の知識や経験不足から想定外の損失を被る可能性があります。三為契約の仕組みを理解し、リスクを最小限に抑えるためには特約事項や所有者の確認、専門家への相談が重要です。このように三為契約を利用する際は、十分な注意を払う必要があります。
アデプトマネジメントでは、不動産買取や任意売却を行っているだけでなく、賃貸管理、仲介業、不動産投資に関するコンサルティングも行っています。三為契約に関するリスクが心配な方は、一度アプトマネジメントに相談してみてください。